Kazuki Oishi

気にかけられるって、うれしいね。
in TAMA ART CENTER TOUR

「気にかけられるって、うれしいね。」
これはドラえもん原作コミックス四巻《石ころぼうし》の最終コマでのび太が言った言葉だ。 話の冒頭で、のび太はだらしがないことを家族にやかましく言われることが嫌になり、自由にな りたくてドラえもんに” 石ころぼうし” という秘密道具を手渡される(小さなサイズしかなく、 きつい)。石ころぼうしを被った人は、消えるわけではないが、まるで道ばたに落ちている石こ ろのように誰にも気にされなくなる。被った人の存在すらこの世から消えてしまう代物で、被った人はその瞬間からこれまでの存在自体もしていなかったことになり、全く認識されなくなる。
TAMA ART CENTER は美術家の光岡幸一氏が2019 年、東京の端の多摩川河川敷に創 設したスペースである(住所非公開)。多摩川の漂流物を利用し、建築されては川の増水で流 されを繰り返し ながらTAMA ART CENTER は漂流するかのように存在してきた。シーズン 毎にツアーが開催されており、2022 年春先に開催されたツアーにわたくし、大石はパフォー マンスゲストとして招かれた。
のび太に扮した僕は石ころぼうしを被り、ツアーに同行した。途中、何度も案内人である光 岡さんに話しかけたが、石ころぼうしの効果で姿も存在も認識されなくなっている僕は無視され 続ける。度重なる無視に不安、不服そうな顔を浮かべてたりしているが、ツアーは問題なく遂 行された。
パフォーマンス中、僕はキツかった。家族のような身内、本当に仲の悪い相手とかでない限り、 話しかけて無視されることは生活であまりない。光岡さんにはパフォーマンス内容を共有した上で、無視をお願いしているとはいえ、話しかけた全てに反応がない状況に演じながらも不安 になり、次に話しかけることがみるみる難しくなっていった。原作で、のび太は初めは気にかけられない自由を堪能するが、帽子がきつくて脱げないことが分かり、無視されることへの不満 や危険の繰り返しに打ちのめされる。のび太もこうだったのか。とのび太に扮した自らをもって 体験するのは滑稽でもあった。
パフォーマンスを観ているツアーの参加者はどうだったか。石ころぼうしの効果は僕と光岡さんの間でしか効果を発揮しないので、実際には無視され続ける大石と無視し続ける光岡に戸惑い、不穏な空気があった。映像にもあるが、ツアーの最後でパフォーマンス内容を打ち明けた際には参加者には安堵感が生まれた様子だった。
ツアーの終盤、僕は帽子を取った。ツアーに混じってTAMA ART CENTERに触れていった。パフォーマンス中、ツアー参加者とコンタクトをあえて取っておらず、初めて会話をし始めた。TAMA ART CENTERは人が集まってお話するアートセンターでもあると僕は思っている。のび太の帽子は偶然水を頭から浴びることでふやけて脱げた。パフォーマンスを終えて僕の帽子が脱げて、参加者の方や光岡さんと普通に話しながら思った。気にかけられるって、うれしいね。

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